「安倍晋三は保守だった」といまだに誤解している情弱作家【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「安倍晋三は保守だった」といまだに誤解している情弱作家【適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第41回

安倍晋三

 

 安倍はすべてにおいて保守の対極にある人物だった。

 200725日、安倍は国会で「私は、更に構造改革を進めたいと、こう思うわけでありますが、(中略)いよいよ新しい未来を切り開いていくために改革を前進をさせていかなければならないと、このように決意をいたしておる次第でございます。私どもが進んでいる道は間違いのない道でございます」と述べ、こう続けた。

「村田清風もまた吉田松陰も孟子の言葉をよく引用されたわけでありますが、自らかえりみてなおくんば、1千万人といえどもわれゆかんと、この自分がやっていることは間違いないだろうかと、このように何回も自省しながら、間違いないという確信を得たら、これはもう断固として信念を持って前に進んでいく、そのことが今こそ私は求められているのではないかと、このように考えております」

 要するに、「自分の意見が正しい」と確信したなら、1千万人が反対しても、突き進むと。

 安倍はよく長州の武士で倒幕のイデオローグである松陰の名前を出す。

 「この道しかない」「この道を。力強く、前へ。」といった安倍政権のスローガンはここから来ているのだろうが、保守主義は「間違いのない道」「この道しかない」という発想を根底的なところで否定する。人間理性を疑い、過信を戒めるからだ。

 人々が熱狂しているとき、冷静に観察するのが保守の態度だ。未知の出来事が発生したとき、立ち止まって考える。フランス革命ならそれが人類の将来にとってどのような意味を持つのか、それによって得るものはなにか、失われるものはなにかを考える。暴走したときに人類はそれを制御できるのかと考える。安易に結論を出すのを戒め、現実に即して観察を続ける。保守はわからないことはわからないと認め、断言を避け、自らの理性すら疑う。人間は完全な存在ではないからだ。

 それは「間違いのない道」といった発想の対極にある。

    *

 安倍は『新しい国へ』で《わたしが政治家を志したのは、ほかでもない、わたしがこうありたいと願う国をつくるためにこの道を選んだのだ》と語っている。一方、保守主義の代表的思想家マイケル・オークショットは、端的に政治とは己の夢をかなえる手段ではないと言う。

 保守思想の理解によれば、「統治者の職務とは、単に、規則を維持するだけのことなのである」。

《この性向の人(保守)の理解によれば、統治者の仕事とは、情念に火をつけ、そしてそれが糧とすべき物を新たに与えてやるということではなく、既にあまりにも情熱的になっている人々が行う諸活動の中に、節度を保つという要素を投入することなのであり、抑制し、収縮させ、静めること、そして折り合わせることである。それは、欲求の火を焚くことではなく、その火を消すことである》(「保守的であるということ」)

 これは政治の役割を軽んじているのではない。逆だ。世の中にはいろいろな人がいる。彼らが持つ夢も多種多様である。それが暴走したり、衝突するのを制御するのが政治の重要な役割であると考えるからである。

 保守的な統治者は、政治とは「価値ある道具」を修繕しながら調子を維持するようなものと考える。一方、人民政府の「指導者」は、私的な夢、個人的な理想を社会に押し付ける。要するに、保守思想の歴史が否定したのは、安倍のような発想である。「わたしがこうありたいと願う国」を作るのが人治国家だとしたら、多種多様な意見を尊重し、たとえ「正しい」と思われることでも早急に物事を進めないのが保守である。

 リーダーを探し、その夢に依存するのがオークショットが指摘した「できそこないの個人=大衆」という類型である。西欧近代は「個人」を生み出したが、同時に「できそこないの個人」という性格が派生した。彼らは前近代的な社会的束縛を失い、自由になった反面、不安に支配されるようになった。自分を縛り付けてくれる対象を見つけようとしても、前近代的な共同体は消滅している。だから、彼らは自己欺瞞と逃避を続けた。彼らには判断の責任を負う気力はない。そこで、自分たちを温かく包み込んでくれる「世界観」、正しい道に導いてくれる強いリーダーを求めた。やがて政治はそのニーズに応えるようになった。

 こうして地獄が発生する。オークショットは、「個人性の熱望」が生み出した統治の形式を「議会政府」と呼ぶなら、大衆が求めたものは「人民政府」だったと述べた。

    *

 百田は「国民が覚醒しなければならない」とも言っていた。国民が覚醒して一番困るのは、百田みたいな連中が集まるエセウヨ・ビジウヨ界隈だろう。

次のページほぼ日。維新クオリティ。

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  • 目次

はじめに−−「B層」とは何か?

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第一章 内田樹と『日本辺境論』

辺境と偏狭

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

B層グルメと某評論家

B層という言葉が出てきた経緯

なぜ日本はこんなことになってしまったのか

ルース・ベネディクトの『菊と刀』

安倍晋三の行動原理

学問のブレイクスルー

マイケル・ポランニーと暗黙知

百人一首を暗記する意味

「型」を知るということの贅沢

 ✳︎

第二章 自立を拒絶する人たち

白井聡の『永続敗戦論』

終戦記念日という欺瞞

冗談は櫻井よしこさん

「サヨク」と「保守」の自己欺瞞

「主権の欲求不満」の解消

 ✳︎

第三章 「正義」を笠に着る人たち

ウクライナ首都の名称変更は「正義」なのか?

「人間は見たいものしか見ない」

社会的リンチというB層の「正義」

人種問題における「正義」の暴走

「ルッキズム」批判は「正義」なのか?

言葉狩りは「正義」なのか?

若年層に選挙権を与えるのは「正義」なのか?

山本太郎と「正義感」について

 ✳︎

第四章 陰謀論に走る人たち 

「無知の知」と「無恥の恥」

不道徳としか言えない果物屋

「維新に殺される」

新型コロナは「バカ発見器」でもあった

ひっくり返って駄々をこねる老人たち

Yahoo!ニュースのコメント欄

知識はあるけど教養がないバカ

デマは言論の自由にあらず

社会の変化は元には戻らない

99%の人が知らない話

✳︎ 

第五章 無責任な人たち

安倍の次は維新に騙されるB層

メディアの劣化が止まらない

大阪都構想のデマと事実隠蔽

総選挙で湧いてきたB層

✳︎ 

第六章 恥知らずな人たち

飼い犬の遠吠え

安倍晋三の本質を映し出す一枚

ツッコミ待ち政治家だらけの国

日本の崩壊に気づいていないB層

日本最大の権力者は「改革バカ」

「ジューシー」発言は外部の拒絶

悪意なく嘘を重ねる人々

カルト化した自民党広報本部

百田尚樹の「歴史改ざんファンタジー」

日本人は悪に屈したネトウヨ用語を使い騒ぎ出した元首相

✳︎ 

おわりに−−人間は過去を忘れ野蛮は繰り返される

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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